俳句ポスト365 原爆忌

印象に残った句について少し思ったことを書いてみました。敬称略で失礼します。

 

原爆忌被爆ピアノのソラ無音
大庭慈温

上五に原爆忌とあって思い浮かべるのですが、下五の「ソラ無音」で一瞬にして眼前に投下直後の焼け落ちた街が映し出されたような気がしました。写真などで惨状を見た時、あまりの光景にそれ以外の聴覚などの感覚が奪われたような時に似て。
今まで考えたこともありませんでしたが、あの日の恐らく爆音で耳が聴こえない状態になられた方が大勢いたのだろうということを思い、はっとしました。

 

水筒の底に我の眼原爆忌
碧西里

実際水面に映って見えるのかわかりませんが、今この時の自分の眼が水に映っている絵が浮かび、そこへ下五の原爆忌と続く、重み。選評にもありますが、その日が立ち上ってくるような錯覚を覚えました。今を生きるその眼と、同じように生きた人々があの日にもいた。その水を挟んで向こう側とこちら側があるように、それは表裏一体であるかのように。

 

折鶴の羽にホチキス原爆忌
ギル

悪意なのか、悪戯なのか、何かに留めるために何気なくしたものなのか。
いずれにせよ、羽にホチキスとそれだけを見ると、物凄く痛そうで残酷な印象を受けますが、案外それをした人にとってはそう深く考えたことではないのかもしれない。加害者と被害者というのはそういうものかもしれないと。